インタビュー:ビクトリノックスな人々 パティシエ 福山護
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愛用のオフセットスパチュラ(左)
スパチュラ(中)
シェフナイフ (右)


憧れの「Madu」で出会ったパティシエ・ナイフ。
手になじむ使いやすさ。
未来の巨匠をめざす日々。
 小さい頃から甘いものが大好きで、気がついたらこの世界にどっぷり浸かっていました。高校卒業後、知人のケーキ屋さんのすすめで「エスワイル」に入りました。多くのパティシエ志望者が専門学校を出てこの世界に入ってくるのに対し、ぼくの場合は、いきなりの寮生活。「習うより慣れろ」式で、基礎から叩き込まれました。ケーキづくりだけじゃなく、挨拶から言葉遣い、生活態度まで、みっちり鍛えられましたね。『未来の巨匠』というテレビ番組がありますよね。まさに、あの通りの修業の連続で、朝4時に起きて夜11時半頃まで約5年間過ごしました。あんこ炊き3年、カスタードクリーム1年と言われますけど、後輩が入ってこなかったので、それ以上やりました。そして一番下の人間のやることだった朝、昼、晩のまかないも。
学んだのはケーキづくりの基礎と忍耐。
 先輩たちのおかげで技術は補えたけれど、知識の面は足りなかった。専門学校を出た同僚は、ある程度の知識を持って入ってくる。それが悔しい。そこで、寝る間を惜しんで専門書を読みました。きつかったけれど、逆に何の知識もなかったので、土が水を吸い込むように、自然に吸収できました。店が終わった後も、なぜこんな味になるのかを確かめたくて、いろいろ試したり、味を食べ比べてみたり。いまとなっては有意義な経験をさせてもらいました。
気に入った道具を手渡す習慣。
 生身で覚えたものの一つに道具があります。かっぱ橋に行って道具を見るようになったのも先輩のアドバイスから。「いっぺんに道具を集めるのはたいへんなので、1ヵ月に1本ずつ気に入ったものを買い揃えなさい」と。かっぱ橋に刃物専門店があって、そこでビクトリノックスに出会い、パレットナイフ(スパチュラ)やシェフナイフなどを買い揃えました。シェフナイフはまかないでよく使いましたね。買い揃えた道具は、結構な数になりましたが、お世話になった人や跡を継いでくれる後輩にあげたりして手元に残りませんでした。気に入った道具を、気に入った人に渡して思いを伝える。その使いやすさをだれかに伝えたいという気持ちがあるんですね。お世話になった人に渡すのは、「ありがとう」という感謝の気持ちをこめて。
再びビクトリノックスとの出会い。
 憧れの「Madu」にやってきたとき、感激したのは修業時代と同じビクトリノックスが使われていたこと。旧い友人に出会ったときのような安心感を覚えましたね。「ああ、同じ道具を使っているんだな」と。
 「Madu」はパリ帰りの桜井シェフが築いた店で、伝統の中に新しさを追求する本格派のパティスリ。小さくても濃厚。1個食べただけでも満足するような濃厚なコクと味わい。フランス菓子のエッセンスが詰まっている、そのスタイルを崩さないようにしつつ、新しいトレンドを大切にしています。秋冬ならタルトタタンバナーヌ(バナナのタルト)とか、飽きさせないものがおすすめ。エスプレッソのような深煎りのコーヒーを飲みながら、大人が楽しめるような甘さの中にも、苦みのある味を出しています。ぼくも大好きで、毎日エスプレッソとチョコを楽しみながら、タルトの台やカスタードクリームなど、仕込みにかかるんです。

Cafe Madu青山店


パレットナイフでクリームを塗ったり、
形を整えたり


濃厚な味わいで人気のショートケーキ、
それがMadu流

お客様のおいしい笑顔に
出会いたい

“おいしい”の笑顔を夢見て。
 数ある人気商品のなかでも、“いちおし”は生クリームがしっかりしたショートケーキ。動物性脂肪が高く、ヘルシー路線とは別の方向ですけど、逆に本来のおいしさを求めるお客様には喜ばれています。食べる楽しみだけじゃなく、目でいただいておいしさを感じることも大事なこと。形の美しさ、香りも同時に味わっていただきたいと思っています。だから、ちょっとした形のズレにも気を使います。手になじんだビクトリノックスのスパチュラやオフセットスパチュラで整えるんです。
 やりがいは、お客様が「おいしい」とおっしゃったときの笑顔に出会うときです。だから、きびしい修業にも耐えられるし、人を教える難しさにも向かっていけると思うんです。楽してはできない。ゆくゆくは自分の店を持ちたい。地域密着で店を出して、地域の人に愛されるような店にしたい。パティシエである以上、それは目標であり夢ですね。

福山護(ふくやま・まもる)
パティシエ。1969年、東京都葛飾区生まれ。高校を卒業後、神田小川町の老舗洋菓子店「エスワイル」(現在は春日町に移転)に入社。「ルコント」に移籍後、「東京アメリカンクラブ」、「ロビングクラブ」のシェフを経て、2006年「Patisserie Madu」に入社し、シェフパティシエとして現在に至る。
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