インタビュー:ビクトリノックスな人々 映画監督 林海象
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高校生のときから映画づくり、ぼくは映画しかできない人。

「スイスメモリー」
を愛用
高校の学園祭で映画づくり。
 映画を目指すきっかけは、高校の学園祭で初めて8ミリ映画を作ったことかな。編集のテクニックも何にも知らずに、見よう見まねで作ってみたら、面白かった。できあがった作品自体は大して面白くなかったけれど、映画を作ることはすごく楽しいと思いました。これが職業になったらいいなあと思い、高校生のときは映画ばかり撮っていましたね。ちょうどその頃ブルース・リーの『燃えよドラゴン』が爆発的にヒットした時期で、じゃあ、カンフー映画を撮ろうかと。政治ものやアニメも撮りましたね。
おれは社会不適合者か!
 大学に進学しましたが、通ったのは2日だけ。こんなところにいてもしょうがないと、上京して寺山修司の天井桟敷に入りました。アングラとか、舞踏とか、今でも、わくわく、どきどき、血が騒ぎますね。唐十郎さんの赤テントにも相当衝撃を受けましたね。だけど、日々の糧を得るためには、働かないといけない。いろいろなアルバイトを経験しましたが、自分に合った仕事はありませんでしたね。何をやっても長続きしない。社会的な不適合者じゃないかと思った時期もありました。
 ある日、土木作業で泥まみれになって、都会の空を見上げたら、すごく暗い気持ちになった。「なぜこんなところでこんなことをしているんだろう?」と。銀座の映画館で千円なにがしかを払って憂さ晴らしのために映画を観たんですが、これが素晴らしかった。土木作業員でも銀座のマダムでも、等しく元気をくれる映画は、なんて素晴らしいものかと。生涯、一本でもいいから映画を作りたいという思いを強くして、26歳のときに撮ったデビュー作が『夢みるように眠りたい』でした。
佐野史郎との運命的な出会い

撮影の合間に

「探偵は人間の生き様なんですよ…」

佐野史郎との運命的な出会い。
 映画の仕事に就いていたわけでもなく、専門の学校に行ったわけでもない。映画の撮り方を知らないということでは、高校生のときと同じ気持ちでしたね。大金でしたが、死ぬ気で働けばなんとか返せる範囲内の借金をして、作品に賭けてみたわけです。これが駄目なら、自分は映画人に向いていない、選ばれていないんだと。すっぱりあきらめて、サラリーマンになろうと決意していました。
 脚本、監督として、製作・配給としても初めてでしたが、幸運にもたくさんのお客さんに来ていただいて、いくつかの受賞にも恵まれ、映画人としてのスタートを切ることができました。主役の佐野史郎とも、運命的な出会いがありました。私が出会った当時、彼は遠藤賢司さんのライブでギターを弾いたりしていましたが、イメージにぴったりだったし、お話して出ていただくことになりました。彼もまた芝居の夢に疲れて田舎に帰ろうとしていた時期でした。これは話をしだすと尽きないですね。
さあ、飲もう! でもせん抜きがない!じゃね。
 ベネチア映画祭に行ったとき、スイスに立ち寄ってビクトリノックスを買ったのが最初かな。それまでナイフ屋さんのウィンドウをのぞいて、大人になったらほしいな、と思っていた子どものひとりです。ヨーロッパへ行くと特に目がらんらんとして、ナイフをいっぱい買いますね。向こうの人は、肉のかたまりもパンもナイフを使うでしょう。食べるために必要な道具ですよ。これがないと、生きていけない。そういう道具ですね。
 ぼくにとって一番便利なのはせん抜きですね。さあ、飲もうとなったときに、せん抜きがなくていつも右往左往。次に、持ち歩きができるコルクせん抜きも便利ですよね。せっかくワインを手に入れても、これがないと始まらない。ハサミも便利です。似たようで、一つ一つ違うじゃないですか。ポケットナイフ一つでこれだけのバリエーションがあること自体がすごいことですね。壊れてもメンテナンスがしっかりしていることがヨーロッパ的でもあるし、使い捨てじゃない文化を感じますね。最近、ノートパソコンを持ち歩きますので、USBメモリーがついた「スイスメモリー」を愛用しています。
いつも何かを追いかけている。

 2005年11月公開の新作『探偵事務所5』シリーズでは、探偵の七つ道具の中に、ガム兼USBメモリ、缶コーヒー兼高性能望遠鏡とともに、時計兼懐中電灯が登場します。突拍子もない道具の一つとして「ライトにもなるウォッチ」と脚本に書いたんですよ。市販されていることを知らなかったので、初めは作ろうと思っていました。ところが、調べたら、なんと、これがビクトリノックスにあった。それで、お借りできませんか、と申し出たら、快くどうぞと言ってもらいました。特別仕様の5の数字が大きいウォッチ。成宮寛貴、宮迫博之ら、探偵たちは全員が持っています。無理やりのタイアップじゃないんですよ。買おうかな、と思ったくらい。映画の作り手としては、とてもうれしいですね。
 ぼくが探偵ものにこだわるのは、ちょっとした理由があってね。探偵はリアルなのか、リアルじゃないのか。いい人なのか、そうじゃないのか、謎めいている。いつも何かを追っている。生きているというのは、何かを探しているということでしょ。見つけられるかどうかは別にして、一生、何かを、まだ見ぬ何かを探している。探偵というのは実はわれわれの生きるという姿そのものなんです。


林海象(はやし・かいぞう)
1957年、京都生まれ。1986年自ら制作・監督・脚本を手掛けた『夢みるように眠りたい』でデビューし、第1回毎日映画コンクール・スポニチグランプリ新人賞などを受賞、一躍脚光を浴びる。監督作品としては、『二十世紀少年読本』、私立探偵濱マイク・シリーズ、『キャッツ・アイ』などがある。現在は京都造形大学の教授も務める。最新作『探偵事務所5』は劇場のほか、ネットシネマhttp://www.tantei5.com/でも配信。
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