インタビュー:ビクトリノックスな人々 料理人 落合務
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愛用のビクトリノックス

目まぐるしく変化するいまの時代、変わらない良さがあってもいいじゃない。
そばに置いておくだけで安心。
 人にあげたり、失くしてしまったりして、本当はもっと数があったはずなんですが。なかでも、ミニチャンプをいつも肌身離さず持ち歩いています。切れなくなったら、ヤスリで研いで使います。この楊枝は3本目かな。失くしても50円くらいで買えるので、助かりますね。あまり使いすぎて壊れちゃったりして、買いなおしたものもあります。
 男はナイフに対して特別な思いがありますね。別に悪さするわけじゃないんだけど、何か不思議な力をもらったような気分にさせられます。特別な目的意識はないのですが、そばに置いておくだけで、安心できます。たまに肉に小さな筋が残っていたりすることがあるんです。そんなとき、ナイフを取り出して、処理するんです。
新発見、これ甘皮押しだった!
 これ、スクレーバーっていうんですか、以前、これで指にできた血豆をとったこともあります。あるとき鍵を中においたままドアを閉めちゃったことがあって、ポケットにビクトリノックスを持っていたおかげで錠を開けることができました。以来、ダッシュボードにビクトリノックスを入れてあるんです。戸外で果物を切ったり、皮をむいたり、なにかと便利です。それからこのヘラの形をしたツール、何に使うのか分からなかったんですが、最近、カタログを見て初めてわかりました。爪を処理する甘皮押しだったんですね。なかなかおもしろいものがあるんですね。
変わらない良さって、いいよね。
 ビクトリノックスの良さは基本がしっかりしていること。変わらない良さがあります。奇をてらわない、変わらない良さっていいよね。しょっちゅう変わると、愛用している人が戸惑ってしまうじゃないですか。また、変わっちゃったって。安心を与えるって、とても大切なことです。料理にも同じことが言えると思う。流行を求めて次々に新しいものを提供するやり方もあるけれど、基本をしっかり守ってやっていく方法もある。私は後者のほうですけれど。
イタリアでカルチャーショック。
 私が料理を始めた頃は、西洋料理イコールフランス料理、フランス料理イコールホテルという図式ができあがっていました。それで、私も最初はフランスに行って修業しました。当時は航空券を手に入れるのも大変な時代でね、いまのように気軽にヨーロッパに出かけるというわけにはいきませんでした。修業を終えて帰ろうと思って空港に行くと、フライトまで4日間の猶予がありました。そのとき航空会社のカウンターであと5,000円ほど払えば、ローマまで飛べると。それで行ってみたんです、初めてイタリアへ。そこで一種のカルチャーショックを味わいました。
イタリアでカルチャーショック。
 最初、空港の汚さに、つぎに街の猥雑さに驚いて、レストランに入ったら、センスのなさにがっかりしました。夜、別のレストランに出かけましたが、そこでも気が利かない、パッとしないものでした。2日目もレストランを食べ歩きましたが、どこも同じ。生意気にも料理の遅れた国だななんて感想を抱きました。3日目になって、おやっと思ったんです。これって、おふくろの料理なんだ、と。おふくろの料理は、見てくれなんてあまり気にかけない。愛情のこもった料理で、いつも変わらない味だ。そうか、イタリア料理は、命をつなぐための家庭料理なんだと気づいたわけです。歴史とか文化とかを調べていくうちに、なかなかいいなあと思うようになり、気づいたらはまっちゃっていたわけです。再びイタリアに行って本格的に勉強しました。
いつも身近なところに

「ラ・ベットラ」銀座2号店
「料理は力仕事」と、厨房にて

「日本で一番予約困難な店」

近著『イタリア料理のおいしい約束』

お客様の“口”を通じて伝わっていく口コミ。
 私がめざしているのは、イタリア人でもおいしいといってくれる基本の料理、毎日食べても食べ飽きない料理です。志を抱いて銀座に「ラ・ベットラ」を出店しました。銀座といっても特別に人通りの多い繁華街でもありません。わざわざ足を運んでくださるお客様にご満足していただくことを大切にしてきました。しかも、夜のお食事で一律3,800円。それで「あの店はおいしかったよ」と言っていただく。文字通り、お客様の“口”を通じて、伝わっていく口コミです。マスコミを通じた派手な宣伝よりも “真実”があると信じています。でないと、リピーターとして、また足を運んでいただくことはできませんからね。
レベルを維持するのはタイヘン。
 開店後7年たちましたが、いまだに予約がとれないと言っていただけるのは、おこがましいようですが、私のやり方が受け入れられたのだと思っています。なかには、他人には教えたくない。教えると、さらに予約が取りにくくなるからという人がいる。ありがたいですね。
 この値段でご満足していただくのは、並大抵ではありません。目先を変えるのはたやすいけれど、同じレベルを維持するのは大変です。同じレベルだと、2回目はご満足いただけない。3回目は落ちたのではないかと思われる。リピーターのお客様にご満足いただくには、質は右肩上がりじゃないとだめなんです。日々、切磋琢磨しないといけないのです。

落合務(おちあい・つとむ)
1947年、東京都生まれ。フランス料理を志して「ホテルニューオータニ」に入社。76年にフランスへ料理修業。78年に本格的にイタリアへ渡り、4年間料理の修業を積む。81年に帰国して「グラナータ」(東京・赤坂)の料理長に就任。97年、東京・銀座に「ラ・ベットラ」をオープンして現在に至る。店は「日本で一番予約困難な店」として、社会現象にも謳われるほどの人気ぶり。
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