インタビュー:ビクトリノックスな人々 作家 谷村志穂
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愛用のスーベニア
自然の中では、いいものだけが生き残る。絞り込まれて残ったのが三点セット。
先輩のリュックの中に。
 大学で野生動物の生態を研究していましたので、よく山に入っていました。そのとき、先輩たちのリュックの中にビクトリノックスが入っているのを見かけました。それが最初の出会いです。やがて東京に出て暮らすようになってしばらく山とは遠ざかっていたのですが、30代になって、突然地元のテレビ番組から話があって大雪山系のトムラウシ山に登ったときに、ついてくれた山岳ガイドの青年が私の持っている道具のあまりの古さにあきれて、一緒に揃えましょうってことになりました。そのときに、北海道の登山専門店で改めてこのビクトリノックスも買ったんですけどね。
化粧道具の延長みたいなスーベニア。
 ビクトリノックスって、たくさんのツールがついた、重くて厚みのあるものを連想しがちですね。女性にはちょっと使いこなせないって印象かな。ツールを引き出すときに、爪を引っ掛けて出すのでやりにくいとか。ところが、このスーベニアに出会ったら、それまでの固定観念ががらりと変わりました。ナイフ2本だけですが、見かけも使い心地もスマートな感じで、口紅みたいにバッグに入れておけるので、いまやすっかりお気に入りです。外国旅行やトレッキング、小旅行するときにも、いつも持って行きます。外で食事をするとき、ホテルの部屋でフルーツなどをいただくとき、だれかが困ってるときにもさっと差し出せて、便利ですよね。名前もかわいいじゃないですか。女友達も持っているので、だれのものか区別するために、ストラップの色を違えています。ちなみに、お友達で、私の料理の先生である飛田和緒さんは同じスーベニアの赤で、色違いなんです。
最後はいいものだけが残る。
 男の人みたいにギアに凝るってことはないですけど、ときどき機会があれば自然の中に入っていくんですね。自然の中ではなるべく荷物を減らしたい。減らしたいけど、快適に動きたいということになりますよね。しだいに限られた道具だけが残っていきます。本当に使い勝手が良くてそばにあって心地よいものだけが残る。わたしにとって、それがこのカップとマグライトとビクトリノックスです。このカップは二重構造のステンレスになっていて、中に熱いものが入っていても口元は熱くないし、冷めたものを入れたら冷めたままだし、なかなかよくできている。コーヒーもビールも飲める(笑)。先日もテレビの旅番組でイギリスの湖水地方に出かけましたが、その際も山の中でケーキを切って食べるシーンがありました。地元のガイドさんが「あ、ビクトリノックスね‥」なんてね(笑)。
 つい先頃も東北新幹線に乗って旅行しましたが、現地に着く前に座席に三点セットをひろげて、まわりの人たちは何しているんだろうって目で見ていました。飲んだり食べたりするときに便利という以上に、精神的にわくわくさせられる。自然の風景がそこに見えてくるというか、好きな風景に出会えそうな気がします。ビクトリノックスは、私にとって自然への入口になっている、と言えますね。
色気のある風景が好き。
 もともと生まれ育ったのが北海道で、小さいときからバイク乗りの父親に連れていかれて自然の中に育ったので、ときどき自然の中に入っていきたくなるんですよね。ちょっと風に吹かれたり、木立の音を聞いたり、座った草むらが湿っていたり。ずっと自然の中にいたいとは私は思わないんですけど。
 私が特に気に入っているのは、人間の手の入ったヨーロッパの自然よりも、プリミティブな原風景が残っている自然ですね。たとえばオーストラリアのアボリジナルランドやモルディブなどに、不思議な色気を感じますね。アボリジナルランドでは、水辺の近くにテントも張らずに横になっていると、頭上に星が迫ってきて、色気があるんですよね。小さな島が1200も集まっているモルディブは高いところがなくて、そこに体を横たえていると、水か、砂か、空か、分からない感じで、宇宙との一体感を感じるんですよね。とてもいい感じです。これからも三点セットをもって、いろいろと素敵なところを旅したいですね。
自然の中で見えてくるものがある

ビクトリノックスが活躍するとき
  
最新刊小説 『カーテン』
(実業之日本社)
飛田和緒氏との共著
『お買物日記2』
山登りの楽しみを綴った
『ごちそう山』

谷村志穂(たにむら・しほ)
1962年、札幌市生まれ。北海道大学農学部にて動物生態学を専攻。1990年、『結婚しないかもしれない症候群』を発表し、ベストセラーに。以降、話題小説をつぎつぎに発表。『海猫』が島清恋愛小説賞を受賞。1999年紀行『モルディブ』(1999年)、エッセイ集『アボリジナルランド』(2001年)のほか、最新作に『カーテン』(実業之日本社)。飛田和緒氏との共著『お買物日記2』(集英社)では、ビクトリノックス、とりわけスーベニアへの愛着ぶりを紹介。ホームページアドレス http://www.shiho-net.org/
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