インタビュー:ビクトリノックスな人々 ジョン ギャスライト ツリークライマー
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ポケットの中にいる、一生の友達

何年も使い込んで短くなった刃先

日本の森はとっても優しいよ
おじいちゃんのあこがれのポケットナイフ
 ぼくのおじいちゃんはビクトリノックスを大切そうに持っていました。話によれば、昔、意気投合したスイス人からもらったビクトリノックスということです。小さいころ、事情があって父と離れ離れになり、つらく寂しい幼年時代を送っていたぼくにとって、おじいちゃんは唯一の精神的な支えでした。ポケットからナイフを取りだして、笛をつくったり、小さな木舟をつくって、遊んでくれました。自然に恵まれたカナダ・バンクーバー島に住んでいましたが、海も山もあって、森には生命があり、木と友だちになればどこにいても寂しくないことを肌で教えてくれたのもおじいちゃんでした。ぼくも、いつかはおじいちゃんのようにナイフを持ち、使いこなす日のことを夢みていました。
いちばん大切なものを愛する人に
 8歳になったクリスマスの日、いよいよその時がやってきました。ポケットナイフをもらう約束になっていたのです。おじいちゃんはぼくに二つのプレゼントの箱をくれ、クリスマスの日に開けるのを楽しみにしながらクリスマスツリーの下においておきました。クリスマスが近くなったある日、おじいちゃんは友だちのトミーの家に行くから一緒に行こうと誘ってくれました。でも、何もクリスマスプレゼントがなかったぼくが困っていると、おじいちゃんは「二つのプレゼントのうち、一つをもっていったらどうだい?」といい、ぼくは箱を触って、これだったらきっとナイフじゃないだろう、と一つの箱をトミーの家に持っていきました。そしてぼくからトミーにプレゼントを渡しました。トミーが最初に大きな箱を開けました。なんと、そこにあのビクトリノックスが入っていたのです。トミーの喜びようといったらありません。でも、反対にぼくは大ショック! 大好きなおじいちゃんが、ぼくにではなく、友だちに、ぼくがいちばん欲しがっていたプレゼントをあげた。中身を知っていたのに、黙っている。ぼくは悔しくて隣の部屋に駆け込んで泣きました。「おじいちゃんのバカ、バカ、バカ」と。
いいナイフは一生もの
一番大切なものを愛している人に
 でも、ね。おじいちゃんはもっと大切な贈り物をしたのです。その年、漁師だったトミーのパパは、海に出たまま帰らぬ人になりました。トミーもまた父のいない寂しいクリスマスを迎えたのです。おじいちゃんとトミーのパパは大親友で、かれもまたスイスのポケットナイフを愛用していました。そんな事故が起きなければ、その日、パパからトミーにナイフのプレゼントがあったに違いありません。落ち込んでいるトミーにとって、おじいちゃんからのプレゼントが、計り知れない勇気を与えたのは言うまでもありません。トミーはおじいちゃんにかけよって「ありがとう、ありがとう、パパはこれと同じ物を持っていた」と感動して抱きついていました。「いちばん愛しているものをあげるのが本当のプレゼントなんだよ」。帰り道、そう言って、おじいちゃんはコートのポケットの中にぼくの手を入れました。そこに別のビクトリノックスがありました。それがぼくへのプレゼントになりました。
海に落としてしまった宝物
 当時、カナダでビクトリノックスを手に入れるのは容易ではなく、おじいちゃんの真意も愛情も知らなかったぼくは、とても恥ずかしく思い、おじいちゃんにあやまりました。ぼくはちょっぴり大人になったような気持ちになりました。以来、ビクトリノックスはぼくにとって特別の存在になりました。おじいちゃんからいただいた宝物のようなビクトリノックスも、それから何年もたったある日、とてつもない大きなサーモンをかけたとき、誤って船べりから海に落としてしまいました。釣った魚のウロコを落とすために、へさきのほうに置いておいたのです。
木の上で一休み  photo:OKADA Studio
1年後に再開したビクトリノックスは?
 いま、ぼくはツリークライマーとして、日本の森の木はもちろん、世界のさまざまな木に登っています。木に登るとき、できるだけ軽くしたい、でも便利な道具はもっていたい、そんな必要性からビクトリノックスをポケットにしのばせておくんです。木に登って何をするのと聞かれますが、木の健康を調べたり、棲んでいる虫を観察したり、もちろん、木の上で休んだり、寝泊りしたり、本当にいろいろな楽しみがあるんです。そんなとき、ビクトリノックスがあるだけで、楽しみが何倍にもひろがるんです。こんな小さなツールなのにね。あるとき、ビクトリノックス(スタンダード・スパルタン)を木から落としてしまいました。一生懸命探したけれど、あたりは暗くなっていたし、木の葉の間にまぎれこんだのか、見つからなかった。それから1年ほどたった、ある日、落としたことも忘れかけていた頃に、奇跡的に見つかったのでした。しかも、風雨にさらされたにもかかわらず、ちっとも錆びてなかった。すごいでしょ。改めてビクトリノックスの素晴らしさを思い知らされましたね。だから、いつも切れ味が悪くなったら、砥石で砥いで大事に使っています。おじいちゃんが言っていたように、いいものは一生ものだから。
  今年、息子が8歳になり、そろそろぼくのビクトリノックスを手渡す儀式が近づいています。

エコロジーデザイン賞受賞

ジョン・ギャスライト(John Gathright)
1962年、アメリカ生まれ。南山大学経営学部卒業。愛知県瀬戸市に廃材の味噌樽を利用して家を建てるとともに、ツリーハウスを造り、日本人女性の夫人と二人の男の子と暮らす。ツリークライミングジャパン(本部アメリカ)を設立し、木登りの楽しさを全国そして世界に広める活動を展開中。著書に『ゆめのともだち』(中央出版)、『子育てはラブサンドイッチ』(扶桑社)ほか多数。テレビやラジオにも数多く出演。「木笑園造林プロジェクト」が2000年度グッドデザイン賞を受賞。
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