インタビュー:ビクトリノックスな人々 雅楽奏者 東儀秀樹
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これひとつあれば、なんでもできる

道具を作った人のパワーをいただく
机のひきだしにしのばせた創造力の翼。道具をつくる人たちの夢や力をいただく。
室内での冒険を楽しむ。
 小学生の頃から図画工作が大好きで、時間がありさえすればプラモデルに夢中になっていました。船、飛行機、自動車…いろいろなものをつくりましたね。中学生になって、商社に勤めていた父から、ヨーロッパ帰りのおみやげとしてもらったのがこのビクトリノックスでした。思春期にもらった思いがけないこのプレゼントは無言のメッセージを秘めており、なんだか大人へのパスポートのような気持ちで、手にしたことを記憶しています。
 一般的にビクトリノックスというと、アルピニストや冒険家が使うアウトドアのものというイメージがあるようですが、ぼくは逆に室内でものすごく使っていました。机のひきだしの中にこれ一つあれば、なんでもできる。なんでもつくれる。魔法の力を得た少年のようにいきいきとしてものづくりに向かっていたように思います。そういう意味では、ぼくは室内の小さな冒険家だったのかもしれません。
一つ一つが道具として成り立っている。
 プラモデルには小さなプラスチックのバリがあるでしょう。一つの作品をつくりあげるのに相当数のバリを取り除くのですが、この面 倒な仕事をするのにとても便利なんです。このビクトリノックスには、とげ抜き、ドライバー、ナイフ、ワインオープナー、缶 切り…いろいろな道具がついているのですが、そこらのとげ抜きやドライバーよりも、ビクトリノックスが使いやすいのです。たくさんのツールが集まっているから便利なのではなく、一つ一つが道具として成り立っている。そこがスゴイと思います。みせかけの十徳ナイフではないんだということを身をもって体験しましたね。ビクトリノックスを手に入れてから、実にいろいろなものをつくったり、壊したりしました。モーターのついた機械の中をのぞいて、小さな部品を外したり、再び組み立て直したりして、時間を過ごしました。市販のプラモデルだけでなく、無からつくるオブジェのようなものにもチャレンジしていました。男心をくすぐるなんともいえない魅力があるんですね。
創意工夫をひきだす、道具として。
 最近は、家庭でも学校でも、子どもたちにこうした道具を持たせない風潮がありますが、とても残念なことです。ビクトリノックスのような便利な道具を日常的に使わせることによって、創意工夫の精神が養われるのではないかと思います。ビクトリノックスを初めて手にすると、どうやって使うのか、わからないようなツールもついていますね。ウロコとりなんて、後から知ったわけで、そのときは一体どんなふうに使うのだろうと、想像するだけでも結構わくわくしたものです。本来の用途とは違う使い方をしても平気でしょう。ぼくはプラスチック板に穴を開けるのに、プラスドライバーを使っていました。キリがついているでしょう。このキリでまず開けたい位置にきっかけをつくるんです。そのあと、ドライバーを押し付けてグリグリと。これが思いの外うまくいくんです。そういう経験もやってみて初めて気づくわけです。だれに教えてもらったわけじゃありません。当たり前の使い方ではない、創造力を育ててくれたように思いますね。
演奏中の東儀氏
最近リリースされた「I am with you」
道具をつくった人たちと空気を共有する喜び。
 このビクトリノックスは、以来、ずうっと宝物のようにして、いまも大切に使っています。さすがにいまではプラモデルはやりませんが、ビクトリノックスは、いつでもどこでも使えるように、身のまわりに備えておきたいとおもうほど、それほど頼りがいがありますね。そうそう、何年かまえ、車にも備えておきたいと考えて何本か買いそろえたことがあります。そのとき、とげ抜きの留め金がこれまでのアルミからプラスチックに変わっていて、このビクトリノックスはとても貴重な存在なのかもしれないと、改めて思い知りました。どういうときにどういう役立ち方をするかは予想できません。でも、絶対に便利だと知っているからこそ、つねに携えていたいんです。海外に持っていて助かったなんてことも一度や二度ではありません。いい道具というのは、永く使えるものです。これは、雅楽で使う道具にも当てはまります。道具をつくった人たちの夢とエネルギーをいただくということ。その人たちの空気をも共有することに、ぼくは無上の喜びを感じています。

東儀秀樹(とうぎ・ひでき)
1959年、東京生まれ。幼少期をタイ、メキシコで過ごし、ビートルズ、ロック、クラシック、ジャズなどを吸収しながら成長した。高校卒業後、宮内庁式部職楽部の楽生科で雅楽を学び、1986年に楽師となる。1996年には、デビューアルバム「東儀秀樹」発売。同年、宮内庁楽部を退職。数々のアルバム「幻奏譜」を発表。2002年「I am with you」を発表。国内・海外で演奏を続ける一方、絵本『光降る音』(講談社)のイラスト、映画『青の炎』(蜷川幸雄監督)の音楽を担当するなど、多彩 な才能を発揮。ホームページアドレス http://www.toshiba-emi.co.jp/togi/
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